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岐阜の前科

岐阜県知事が突如LRT構想を打ち出し話題となっています。寝耳に水の岐阜市は腰が引けていますが、地元経済界は歓迎のようです。

 

岐阜には、かつて2005年までは岐阜市を中心に名古屋鉄道経営の路面電車網がありました。郊外部では鉄道線に乗り入れるなどすでにLRTと言えて言えないことはありませんでした。もう少し政治/行政的配慮と地元の応援があれば正真正銘LRTに脱皮していたはずでした。

 

岐阜県警は路面電車に対し停留場の安全地帯(交通島)を設置するのを許しませんでした。乗客は命がけで乗り降りしていました。路面電車が次々廃止になった昭和40年代前半、どこの路面電車を見ても安全地帯のない停留場が多く、交通戦争のさなか歩道から直接乗降できるバスが安全でいいと電車は敬遠され、路面電車の廃止に拍車をかけました。

 

名鉄が路面電車の支援を申し入れたとき、岐阜市・県はほかの大きな問題に直面していました。それは三菱自動車がリコール隠し不正で操業停止となり、県内に多くある関連企業やその従業員の救済に迫られていたのと、岐阜市内の産業廃棄物の違法投棄の処理をしなければならないということでした。名鉄電車のことなど構っていられないと対応しなかったのです。大企業の名鉄なので、経営が厳しくとも何とかすべき、何とかするだろうとの決めつけがあったのかもしれません。

 

 外国資本の交通運営会社が参入を試みましたが、外国の常識として公的支援を見込んでの経営であり、それが全く見込めないためさっさと手を引きました。結果、路面電車網は全線廃止となってしまったのです。大企業の自動車メーカーの不正、そして違法行為の産廃の処理のために公共交通が天秤に載せられ打ち捨てられたというのはどう考えても理不尽と言わざるを得ません。

 

それから20年たち、岐阜の中心市街地は百貨店がすべて撤退、空洞化がさらに進行し、衰退し続けています。郊外型のショッピングモールはあちこちにできましたが、LRTの片棒はとても担げないほど岐阜市の税収は落ち込んでいるのでしょう。

 

岐阜県が、過去の状況をある意味、再考・反省しLRTに再び白羽の矢を当てたのは評価できます。行政は一旦決定したことは簡単には覆しません。社会情勢の変化に目を向けずかたくなに過去の決定を墨守することが多いです。例えば身近な某大都市では、半世紀以上前に市電を廃止したので、今も路面電車はわが市域には不要と、現存する路面電車に支援を拒否し続けています。これが現実です。

 

岐阜県の英断を応援するとともに、今後の成り行きを見守りたいと思います。