ネットニュースを見ていたら、岐阜市が架線レスすなわち架線のいらない充電式のLRTの視察に台湾に行くという記事がありました。県が提唱したLRTには及び腰と見えていましたが、方針転換?ではなくちゃっかり外遊のネタにしたというのが本当のところかもしれません。
悪口はこれくらいにして、電車は地下鉄を除き線路上空の電線の架線からパンタグラフを介して動力となる電気を取っているのはご存知の通りです。路面電車・LRTで架線レスの電車は日本では全くなじみがありませんが、外国に眼をやると新規に路面電車・LRTを導入する都市で盛んに採用されています。19世紀に電気で動く車両が発明された時、それは電池で走るものしたので当然架線はありません。その後、感電の危険が少ない架空電線からの供電が標準となり市街地の交通に爆発的に電車が普及しました。しかし、電線や電柱が目障りだという指摘があり、また冬季に着氷による断線が相次いだこともあり路下や路面接触による給電が考えられました。
19世紀末から20世紀初頭、米国など(NYのマンハッタンが有名)ではレール間に電線を配した溝を設けそこから電気を得る方法、景観を重んじるフランスでは、レール間に上下に動く「鋲」を埋め込み、車両が鋲の上を通過するときに磁気により鋲が車両と接し、接している間のみ電気を流して車両が電気を得るというウルトラC級の方法が発明されました。これらはいずれも非常に建設費が高額で、また洪水に弱く比較的短期間で消え去りました。ただフランスの「鋲」方式は1世紀を経て、ボルドー市で、鋲ではありませんが、レール間に設けた軌条からの路面接触式供電方式で復活し、フランスの技術でLRTを新設した都市(リオデジャネイロ、シドニーなど)で採用されています。非常に高度な技術なのと建設費、維持費とも高額となるのでどこでも採用できるとはなりません。

冒頭の台湾や中国の多くの都市で採用されているのは、キャパシタ(大容量コンデンサ)です。LRT計画ラッシュとなっている韓国では、架線レスがマストで、ソウル市ではバッテリー方式、ファソン市ではキャパシタ方式が採用される予定ですが、テジョン市、ウルサン市は韓国の国策で進めている燃料電池を採用すると発表しています。
キャパシタはバッテリーに比べはるかに軽量で充電時間が数十秒ですみ、1回の充電で2km程度走ることができます。充電ポイントを間隔短く設けられる路面電車・LRTでは十分実用できます。しかし、事故などで30分、1時間と長時間立ち往生すると放電してしまう可能性が大で、その都度救援が必要になってしまいます。そのため鉄軌道での採用に国土交通省が認可を渋っていると聞いたことがあります。
ならバッテリーはというと、かつての鉛電池よりはコンパクトになっていますが、国が求める容量を確保するにはやはり重くかさばるものになります。しかも寿命が思いのほか短いのが難点だそうです。
左:台北近郊の淡水大きな交差点部が架線レスになっている。中:フランス・シャンパーニュ ランスの路面接触式LRV。 右:フランス・ニースのバッテリー走行LRV。架線レスはこの広場部分のみ。
実は、わが国の架線レス路面「電車」は、堺市がLRT計画の時言い出したのが最初で、国内メーカーとJR総研で二種類のバッテリー方式が考案され実際に試験車も作られました。ただ試験車ができてまもなく堺市がLRT計画を放棄していたので、折角の試作車も他市で試験はされましたがノウハウが成熟するところまでは行きませんでした。堺市はここでもわが国の技術発展の足を引っ張ったことになります。
写真は堺市での採用を睨んで作られたと言われる試作車(川崎重工)