
かつて、堺浜にゴムタイヤトラムの試験線があったのをご存知でしょうか。
堺市が東西LRTプロジェクトを進めているときの2005年6月からシャープの進出が決まるまでの間、三井物産などが新日鉄所有の遊休地に設けていました。フランスのロール社が開発した「トランスロール」という機種でした。デザインはさすがフランスと言える日本人が眼にしたことがないようなスマートなデザインでした。
当然、試験線設置は堺市で当時計画が進んでいたLRTシステムでの採用をめざしたもので、見学や試乗は大歓迎でした。堺市関係者は上から下まで皆このゴムタイヤトラムにコロっと一目ぼれ、堺市のLRTはこれで決まり!という雰囲気に傾きました。
ところが、ゴムタイヤトラムは阪堺線のような既存のトラムと互換性がなく、相互乗り入れはおろか平面交差も困難と言われていました。堺市のLRT建設関係者は、何が何でもゴムタイヤと血まなこ状態、邪魔になるなら阪堺線は廃止してしまえ、とトンデモ暴言が飛び交う始末となりました。
専門家の意見や経営予定者の企画により、結局阪堺線と互換性のある機種に落ち着きました。しかしながら以降、堺市役所内のLRT熱はみるみる冷めて行ったようにも感じられました。
堺でのゴムタイヤ狂想曲の後、トランスロールは中国の天津と上海に相次いで導入されました。ところが最近のニュースを見ていると、上海の路線が保守用部品の入手が特許の関係で行き詰まっているということで、2023年6月1日から廃止を前提とした運行休止に追い込まれました。また天津でも設備更新のためということで近々運行休止となるそうです。
もし堺に採用されていたら・・・ 阪堺線は廃止されるは、LRTは運行不能という最悪の状態になっていたかもしれません。トランスロールに踊らされていた約2年間は堺LRTプロジェクトにとって失われた2年間と言い切る専門家もいらっしゃいました。
堺のLRTが失敗した理由はいくつかありますが、その内の一つだろうと思います。