· 

富士山登山ゴムタイヤトラムとは何?

山梨県が2021(令和3)年に富士山五合目までのスバルラインのドライブウェイにLRTを敷設するという構想を発表しました。日本でもスイス並みにスマートな登山観光用鉄(軌)道ができるかと期待していましたが、富士吉田市など沿線の市から反対が表明されていました。

202411月、県は、鉄道(レール)敷設はせず、ゴムタイヤで走る電車のようなバスにすると変更表明しました。愛称も富士トラムだそうです。このゴムタイヤトラムとは一体何なんでしょうか。

 

かつて堺に試験線を設けたゴムタイヤトラムはまがいなりにも1本のレールが敷設されそのレールで進路をコントロールしていました。富士トラムは物理的なレールではなく、道路に塗装した白線や磁気釘を認識し進路を決める方式です。このような誘導方式のバスはヨーロッパで開発され一部の都市で実用化されていますが、この技術を中国が発展させ、世界最大の車両メーカー中国中車(CRRC)が商品化したもので、バスではなく軌道交通の一種として「智軌」とネーミングされています。道路の白線もバーチャルなレールということで軌道系交通だそうです。

中国株州市のゴムタイヤトラム「智軌」
中国株州市のゴムタイヤトラム「智軌」
ハルビンの氷結道路を走る智軌
ハルビンの氷結した道路でも走行可能

日本流に平たく言えば「自己操舵式の両運転台電気バス」といえるものです。白線、磁気釘をGTSや事前にコースを覚え込ませたAIで補完し安全な走行を確保し、操舵だけでなく加減速や停留場停車、扉開閉も含めた自動運転も可能です。

中国での標準モデルは3車体連節、車体左右両側に広幅扉が3カ所ずつ、全長31.6m、車幅2.65m、床高33㎝、最小通過可能半径は15m、車輪は6軸、運転最高速度は70/h、登坂能力は最大130‰といったところです。気になる重量の公式発表は見つけることができませんでした。ゴムタイヤ走行で消費電力が多いためかでキャパシタではなく、リチウムバッテリーや燃料電池の電気が動力で、最近は燃料電池モデルを売り込んでいます。

 

中国では少し前までは有軌電車新設ブームでしたが、これを蹴散らし、地下鉄や近郊電鉄が建設できないやや小規模な都市での導入が進んでいます。

マレーシアへ輸出される燃料電池モデル
マレーシアへ輸出される燃料電池モデル

また最近は、輸出用としても力を入れている商品で、ARTAutonomous rail Rapid Transitの略称で海外展開を図っています。軌道敷設などの道路工事が不要で導入までの期間が短く、道路交通への影響や費用の点が有利ということで、トルコ、ドバイ、マレーシア、インドネシアなどに導入が決定しています。

中国ではDRTと言われる磁気誘導式やSRTと言われるさらに大型の両運転台電気バスも実用化されています。

山梨の場合は、どうも、関係者が9月のドイツ・ベルリンのイノトランスでCRRCの実車の出展を見て惚れ込んだ(一目惚れ)ものと思われます。堺市がトランスロールに魂を抜かれたのと同じです。早速中国メディアは、日本、それも「富士山」への売り込みが成功しそうだとはしゃいでいます。ただ、ヨーロッパではあまりいい評価は受けていないように見えます。

この交通モードを日本国内の交通法規にどう当てはめるのか、中国の特許で塗り固められたこのシステムが日本になじむのか、事後のメンテナンスは円滑なのか不明です。道路工事費は省略できるが車両費は通常のLRVより高価と思われ、またレールはないものの「軌道敷」は他交通に邪魔されないよう確保しなければならない、轍(タイヤのあたるわだち)部の道路舗装の保守など課題は多いことが予想されます。

 

中国側の売り込みは熾烈と思われますが、よく考えた上で事業の推進をお願いしたいと思います。